大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)2549号 判決

しかのみならず次に示す観点からも控訴人等の本訴請求は認容し得ない即ち昭和二十四年十二月十四日控訴人鈴木吉次が控訴会社に対し「花月食堂」なる商号の使用を許すと共に自らの従前の営業所で従前の営業と同じ営業を続けさせ、自身は直ちに控訴会社の代表者となつて控訴会社の経営に従事し、爾来控訴人鈴木吉次個人としては従前の営業を廃止したことは同控訴人の主張自体によつて明かである。思うに商法第十九条、第二十条が商号を登記した者に対し、一定区域内に同一商号を登記した者に対しその抹消を求める権利を与え又同一商号を使用して不正競争をする者に対しその商号の使用を止むべき旨を求める権利を与えた所以のものは商号は事実上商人自身より游離して恰も営業自体の名称たるかの如き機能を有するものであるから、その商号によつて表徴された商人の営業自体が同一の商号を使用して同一又は同種の営業を為す他人のために侵害されることを防ごうというのであるだから個人が営業を伴わない商号権をもつことは殆んど無意味である。従つて営業を伴わない商号はたとえ登記が存続していたとしても右各条の排他的効力を有せざるものと解するのを相当とする。控訴人鈴木吉次の登記した「花月食堂」の商号は少くとも現在においては前認定のように営業を伴わないものであるから前記廃業と共に抹消さるべきものでありこの登記が残存している一事を以て被控訴人に対し商法第十九条に基く商号登記抹消、並に同法第二十条に基く商号使用禁止を求めうべきではない。即ち控訴人鈴木吉次の本訴請求はこの点に於ても失当であることが明かである。なお被控訴会社はもと訴外伊東幸が昭和二十三年十一月中(従つて控訴会社の設立登記前)から同じ場所で同じ「花月」の商号で経営していた料理店営業を会社組織に改めたものにすぎないことは被控訴会社代表者本人の原審における供述によつて明らかであり、同供述及控訴人鈴木吉次本人の原審における供述によれば当事者双方共互に相手方の商号使用の事実を本訴提起直前まで知らずに過したことが認められるのであつて、それにもかかわらず控訴会社の商号登記が被控訴会社の商号の抹消及使用禁止を求め得るものとすれば、控訴会社自身の商号もこれに先だつ控訴人鈴木吉次の商号の登記あるによつて抹殺さるべき筋合であり、(控訴人鈴木吉次が現実に控訴会社の商号の抹消を求めるや否や、又商号使用を許したか否かにかかわらない。形式上両者は別人格だからである)かような関係にある控訴会社が被控訴会社の商号登記抹消とその使用禁止を求め得ないこと前記各法条の精神に照らし当然であろう。

(梶村 岡崎 堀田)

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